2013年4月22日月曜日

全曲バイブル回想録 Help! その2

モノバージョンとボーカルバージョンの相違の調査がメインだったこともあり、重要な書き残しがひとつあった。モノバージョンのミックス違いである。

この曲とTicket To Rideは映画でのマイム禁止のため、タンバリンを抜いたバージョンが作成されている。Ticket To Rideは所々でタンバリンの音量を下げる程度で誤魔化しているが、主題歌となるこの曲ではボーカルを録音し直してタンバリンを削除したのは全曲バイブルで記載した通りである。

そうまでして作成したモノバージョンであるがオープニング部分の10秒ほどはオリジナルのボーカルに差し替えられていることまでは述べている。この差し替える前の新録音だけのモノバージョンが初期の映画用として使われているという事に関する分析が全く漏れていた。

新録音となったオープニング部分は、ジョージの声が大きく、ポールの半音ずつ上がって行くパートが余り聴こえない。これが差し替えられた理由ではないかと思われる。

また、オリジナルの録音同様、ボーカルは2トラック録音されているが、メインとなっているトラックが異なっている。リリース版のモノバージョンでは、3番目のヴァースで"I never needed anybody's"をしゃがれた感じの声で歌っているが、当初はこれが入ったトラックをメインとしてミキシングされていた。そして、リリース版のモノバージョンを作成する際には、しゃがれた部分だけは残して、他は別トラックのボーカルをメインとしてミキシングしている。

2013年4月18日木曜日

全曲バイブル回想録 Another Girl

この曲は1テイクで作成されているため、情報がかなり乏しく消化不良の記述となってしまった点は申し訳ないと感じる。ただ、適当な推測ばかりを書き並べてしまうと全体の信頼性が揺らぐので致し方なかったということである。

まず、モノバージョンの作成は1種類のみのはずだが、実際には映画のサウンドトラックに使われたモノバージョンが別ミックスになっている。2つあるボーカルトラックの使い方が異なっており、またボーカルには深いエコーが付けられている。ボーカルの相違として分かりやすいのは30秒付近から始まる2番のヴァースで、リリース版では"she"が大きい方のトラックがメインで使われているのに対し、映画バージョンでは"she"を歌ってない方のトラックがメインになっている。残念ながら昨今のDVDではオリジナルの音声を聴くことができないため、読者には欲求不満の情報になってしまう。しかもレコーディングセッション本にも映画バージョンの記載は無く、単なる推測情報となった。

更にレコーディング情報としても、ポールが追加したとされるリードギターが曲者であった。ジョージ・マーティンが残したメモから、当初からジョージがJ-160E、ジョンがストラトキャスターを弾いていることが明らかになっている。ここにポールがどのようにリードギターを重ねたか、を推測したが結論を出せない記述となってしまった。この場合、当初はリードギターらしいものが無いアレンジだったことになり不自然極まりない。ジョージかジョンがリードギターらしい演奏をしていたのではないかと思う。エンディングの編集パートまで作成していたのであるから尚更である。初日はそれでOKとしていたが、ポールが満足できず、ポールがリードギター、ジョンとジョージはカッティングのみという構成でギターパートのトラック全体を差し替えた、と考える方が自然ではないだろうか?

2013年4月17日水曜日

全曲バイブル回想録 Baby You're A Rich Man

ステレオバージョンとモノバージョンの相違はパーカッションの有無という些細なものであった。ただ、ステレオバージョンが作成されたのはビートルズ解散後であるという点で重要な情報となった。
ステレオバージョンはもちろんビートルズとは無関係な状態で、4トラックのマスターテープから作成されている。問題の相違箇所には4種類のトラックの音が全て入っていて、オフになっているトラックは無い。ところが、モノバージョンには、この部分に別の音もミキシングされているのである。つまり、モノミキシングの作業中に音を加えたことは明白である。ミキシング作業中に音を加える、というのは以前から(たとえばCan't Buy Me Love)行われていたが、1967年の時点でも行われていたということである。
マルチトラックテープに全てを録音したわけではなく、リリースバージョンを再現できない曲を探すというのも目標となった。

2013年4月13日土曜日

全曲バイブル回想録 Day Tripper

同期再生によってコーラスが2つのトラックを使って録音されている事などが判明したが、地道な作業を行う事で面白いネタを得ることもできた。修正箇所の元ネタ検出である。
演奏ミスを修正したバージョンがリリースされたが、どの様に修正したかは単純な同期再生では判断できない。解るのは、どこからどこまでが違うのか、という事である。ただし、今回は片方のチャンネルが丸ごと差し替えられているが、他方は修正されてない、という事まで判別できた。となると話は簡単、ステレオバージョンの音が左右に分離されているという特徴を利用して、修正したいチャンネルだけを差し替えたと推測できる。後は地道な作業である。数カ所ある比較候補を片方のチャンネルだけ同期させてみるだけだった。

周波数解析をしてみてギターの特徴も理解できるようになった。イントロのギターを解析すると、最初のE音は6弦の周波数とその倍音が出ていたが、時間の経過と共に6弦の周波数は直ぐに消え、倍音だけ残った。これがアコースティック系の楽器の特徴なのである。基音(最低音)が無くなるので軽い印象の音になる(ヘフナーも同じような特性を示す)。ソリッドボディだと基音が保持されるのだが、アコースティック楽器は低い音を共鳴させるのが難しいのだろう。つまり、この曲で使われたギターはストラトキャスターなどのソリッドボディのものではなく、カジノやギブソンES-345などのセミアコースティックな楽器と判断できる。

2013年3月30日土曜日

テネシアン その4(Words Of Love)

Words Of Loveのギターは12弦ギターではないのではないか、というのが自論であるが、では何を弾いたのかを述べる必要があると思う。

現在入手できるVOX AC-30 での検証となるが、NORMALチャンネル(音を歪ませない方の入力端子)に付いているトレブルコントロールをフルアップ状態にすると正にこの音になる。つまり、この音はグレッチとVOXアンプで作れるもっとも高音の効いた音と言える。

具体的なセッティングは、
テネシアン側は、フロントピックアップ、トーンスイッチはセンター
アンプ側は、トレブルコントロールがMAX、ベースコントロールは中央
である。
アンプの影響が大きいのでカントリージェントルマンでも同じような音が出るのではないだろうか。ポイントはリアピックアップより更にブリッジ寄りをピッキングする事である。この音色はフェンダー系ギターのリアピックアップの音に近いことから、バディ・ホリーが弾くストラトキャスターの音色に近づけるために編み出した方法ではないかと推察する。

この組み合わせで試せる方は是非検証してみて頂きたい。

2013年3月24日日曜日

全曲バイブル回想録 テネシアンは使ったの?

レコーディング資料の中でも第一級なのがジョージ・マーティンが残したメモである。高価な書籍の一部なので、とても個人では入手できないが、FromBEAさんがたまたま所有されていて内容を確認することができた。

HELP!のレコーディング・セッションの一部が記録されたもので、アビーロードスタジオに残されているレコーディング記録より詳細である。
たとえば、

John on 12 string acoustic
George on Spanish acoustic
Paul on Bass
といった記述がトラック毎に記載されている。この例で言えば、ジョンはギルドのアコースティック12弦ギターを演奏、ジョージはガットギターを演奏、ポールはベースを演奏、となる。ミキシング作業のために楽器の種類も明確にしていたと思われる。
注目すべきはBassの記載で、まだリッケンバッカーベースを所有していないのでベースと言えばヘフナーを指していることである。
同じように、

Paul on Epiphone
John on Fender
という記載があるが、エピフォンと言えばカジノ、フェンダーと言えばストラトキャスター、と特定できるのでメーカー名で十分ということらしい。
逆に区別が必要であれば以下のような表現がされている。

George on 12 string Rickenbacker
Jumbo Gibson acoustic
J-160Eは愛称のジャンボが使われているが、これはポールのテキサンと区別するためなのかも知れない。

そして問題は以下の記載である。
George on Gretsch
グレッチにはテネシアンとカントリージェントルマンの可能性があるはずだが、区別する必要がないのか、はたまた一方しか使ってなかったのか。そう言えば、映画の中でも、レコーディング・スタジオではカントリージェントルマン、屋外ではテネシアン、と使い分けていた。軽いテネシアンはライブ用(何かあっても安いので惜しくない)、大事なカントリージェントルマンはスタジオでのレコーディング用という使い分けがあったのかも…


2013年3月20日水曜日

全曲バイブル回想録 とくダネ!の小倉さん

一番重要な事を思い出しました。
ビートルズが今なお人気があるとは言え(これはJASRACさんがネット上で音楽を話題にすることを禁止されているので新しい音楽が広まらないという理由も多分にあるとは思いますが)、全曲バイブルがまさかamazonの全書籍で7位にランクするとは予想もしていませんでした。
http://www.rankbank.net/amaran/history/?date=09121200&cat=book&asin=482226341X

この本の企画を頂いた当初は、集大成とはいえども企画本のひとつに過ぎませんでした。ところがリマスター盤が発売されるということで日程計画が変更され、リマスター盤に関する調査も含めるということになりました。リマスター盤は世界中で厳重に管理されるので、一般の方と同様、発売日に購入して調査開始です。同期ソフトの性能を向上させて準備はしていましたが、200曲以上の分析のためパソコンは昼夜フル回転。それでも一ヶ月半を要しました。
そして、めでたく12月に発売されると100位台を推移する快挙。これでも私は十分に満足していたのですが、12月12日の朝に奇跡が起こりました。いつも通りテレビを付けて仕事の準備をしていたら、とくダネ!のオープニングトークの画面に全曲バイブルが!そして小倉さんから大学の研究レベルという最上級のお言葉が(誰かが手を回したのだろうかと真剣に思ってしまいました)。
その後、
先のリンクが示す通り、Amazonのランキングが急上昇。最高位7位を記録しました。恐るべし小倉さん。テレビの宣伝効果を思い知りました。もう小倉さんに足を向けて寝れません。ただ、そのオープニングトークも今は無くなってしまったのが残念です。